都市、孤独、そして自転車・・・

初秋、吉田町にあった路上演劇の話しをします。
自分自身、この上演に仕事として関わっていたので、
どの切り口から書こうか、大変悩んでいます。
それが、タイトルになっているのですが、
名文を書ける自分でもないし、結局考えるのをやめて、
経験したことをあるがままに書くことにします。

この公演は、急な坂スタジオという野毛山にある
公共の結婚式場を転換した舞台芸術施設を運営している団体により、
プロデュースされたものです。

彼らが話していたのは2年前、私が具体的に話しを聞いたのは、1年前だった気がします。
実際に開催が決まり、作家が来日したのが、今年の4月。
事前に聞かされていた話しは、街全体にインストールされる演劇のため、
道路を通行止めにし、営業中の店舗を借り、街路灯を全消灯する、等々。
作家は、横浜の中心市街地を隈なく歩いた結果、
「吉田町がベストだ。後は宜しく。」
と言って地球の裏側へと帰っていきました。
急な坂スタジオのプロデューサーは、意志の強さこそが、その人の強さという方。

この彼らの熱意が天に通じたか、
街の方の多大なるご協力により、公演は実現へと向かいます。
私は調整役として、一安心。
世界各都市が実現したものが、創造都市を掲げる横浜で実現できなかったら、
と内心ヒヤヒヤしています。
そこは、不純かもしれませんが、自分にとってのモチベーションのひとつ。
正直に申し上げますと、あまりにもハードルが高いので、下を潜った次第です・・・。


そして、本番を迎えます。
大勢のお客様にご来場いただき感謝。
世界中で公演は行われているものの、横浜と融合したこの作品の持つ
「この時、ここでしか体感できないもの」
の強みを再認識させられます。

見る人、通行人、セットを組まれた店、通常営業をする店、
街と舞台の境界線がなくなっています。
関係者は、都市空間と演劇の融合に驚いている様子。
道路照明が消えた街は、とても美しく、
窓から漏れる灯りからは人の生活が感じられます。
一緒に仕事をしている照明家の方が、
以前から提案されている街としての空間が、
期せずして、そこにあります。

私は、歩行者で埋め尽くされた道路を見て、
自転車に乗った通行人との事故が起きないよう、
スタッフに指示することで、頭が一杯です・・・。


実際の公演の内容はというと、ある人が話すことが、とても印象的です。
「早く帰って家族の顔が見たくなります。」

この作品は、実際に「都市の孤独」に取り組んでいます。
王道のテーマです。
ラ・マレアと呼ばれるこの作品は、
9つのオムニバスが同時に何回も上演されるものです。
その9つの話しは、一つも繋がっていません。パラレルワールドです。
それが、ひとつの空間の中で表現されています。

私は、生活の中で、家庭、職場、サードプレイス、
様々な空間で、多くの人と繋がっています。
でも、個としての人生を考えた場合、
細く先の見えない一本の糸の上を一人で歩いています。
不安でどうしようもないとき、下を見ずに周りを見れば、
同じように糸の上を歩いている人が見えます。
ラ・マレアは、毎日上手くいかないことが繰り返されるが人生ではあるが、
大きな世界の中に自分が確かにいることを私に教えてくれます。

最終日は雨、観客の傘が、つかの間の休息を得た道に花を添え、儚く散っていきました。
それは、僅か3日ながら、街と多くの人が同じ月を見た夜でした・・・。